ヘソで茶をわかす

日本のへそ、諏訪湖畔に住む小市民の日々の記録

得意料理で胃袋を掴むと言いますが、これはたぶん違いますよね

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お題「得意料理」

ふと思い出したので「得意料理」について書いてみようと思う。

といっても自分の得意料理についてではありません。書いてみたいのは私の妹と得意料理について。

以下、かつて私の妹が得意料理だと言って振る舞った料理の数々についてです。

俺の妹がこんなに可愛いはずがない

こんなタイトルのラノベが昔流行りましたけど、その通りだよ。妹が可愛いはずがないのです。あんなものは妹という生き物を知らない男どもの妄想が生み出したものに違いない。

妹なんてものは一言で言ってしまえば暴君みたいなものだ。

私の兄弟は男ばかりで、最後の最後に少し年の離れた末っ子で妹が一人いる。

こんなことを書くと甘やかしたとか思うかもしれませんが、そんなことはありません。彼女は最初から暴君でした。そう、生まれながらに暴君。

彼女は私たち兄を兄とは思わず、道具として使っていた節があります。

3人いる男兄弟のうち、一番下の兄弟はTOKIOの長瀬似のイケメンだったのですが、コイツは「お出かけ用」でした。まぁ、コイツの扱いは割と良かったんじゃないかな。妹が買い物に行くときなどに車を出すのはコイツの仕事でした。隣を歩かせると優越感に浸れるのでしょう。兄弟の中ですら顔面偏差値による差別は存在するのです。

わたしと真ん中の弟が悲惨でした。完全に道具。

弟は後にプロになるほどの料理上手。そんな弟はもちろん「料理番」。特にスイーツ系はレシピ本の最初から最後まで作らせたり、それを自分が作ったかのように友人らに振る舞うなど傍若無人っぷりが発揮されていました。

で、最後が私だ。私は言うなれば「便利使い」。イケメンがいなければ、「まぁ、へそちゃで良いか。」と気難しい2番目の弟を避けて私をアッシーにし、料理長がいなければ、「50点の料理で我慢するか。」と私に飯を作らせ、学校の宿題が分からなければ猫なで声で助けを求め…

そんな妹でした。

「でした。」じゃないな。今も暴君のままです。

妹の彼氏(現旦那)との食事会

そんな暴君も年頃になれば結婚を意識するわけです。で、まぁ、数年前、彼氏を紹介したいという話になり、丁度今頃じゃなかったかな、私と母と妹とその彼氏(旦那)で食事をすることとなりました。

私も母も料理が好きなので、よく新作レシピを試食しあうような食事会をしていたのですが、それに招待する形になりました。

これが人の革新?へそちゃ、新たなセンスに目覚める

食事をしながら打ち解けあっていくうちに彼氏さんが言うのです。

「お母さんもお兄さんも料理上手ですね。だからヘソ子(妹)料理上手なんですね。」

 

━━ΣΣ(゚Д゚;)━━!?

 

私がニュータイプとして覚醒した瞬間でした。

口もきいていない、目も合わせていないのに、母と意思疎通できてしまったのです。

母の思念が伝わってきます。

 

(「ヘソ子が料理上手って、一体どういうことなの!? バカ舌なの!?」)

 

(「これは、間違いなく何か裏があるよ。母さん。」)

 

(「そうよね。あの子が料理なんて出来るはずが無いもの。ううん、それ以前に料理なんてしないわ。」)

 

(「ヘソ子を気に入るような、菩薩のごとき広い心の持ち主なんて、今後未来永劫現れないかもしれない。ボロが出ないように話をあわせよう。」)

 

どう考えても妹は何か隠し事をしています。

チラリと目をやると… いや、目を移すまでもありませんでした。

彼女は私たち二人に向けて言いようのないプレッシャーを放っていました。私たちは、何があろうと、このミッションを成功させざるを得ない状況に置かれていることを思い知らされたのです。

 

探りを入れてみる

「あ、もうヘソ子の料理食べたんだ?じゃぁ、手羽先の照り焼きは食べた?あれ美味しいでしょ、我が家の秘伝のレシピなんですよ。」

 

ここで言う手羽先の照り焼きというのは母の得意料理だ。ハッキリ言って最高に美味い。私も妹も大好物なのだが、ちょうど数日前に母が作っていた。そしてそれをタッパーに入れて持ち帰った妹の姿を思い出して、まさかと思い話してみた。

すると案の定だ…

 

「あ、実は昨日お昼にお弁当で食べたばかりなんですよ。ホント美味しいですよね。」

 

嬉々として答える彼氏さんの笑顔が私と母の心をえぐる…

しかし、これでは終わらない。たたみかけるように連続攻撃が続く。

 

「この間部屋で飲んだ時には三升漬って奴を頂きました。ピリッと辛くて美味しいですよね。」

(それ、俺が作った奴や…)

「それから、よく紅茶にジンジャーシロップ入れて飲むんですけど、アレも暖まって良いですよね。」

(それも俺が作った奴や…)

「丸っこいパンを焼いてくれたんですけど、これも美味しくって。」

(たぶん、それ母さんのだ…)

「煮豆が…」

「カレーが…」

「ロールキャベツが…」

「大根と生ハムの…」

 

どれもこれも、私か母が作った奴だ…

 

(「どうするんだよ、母さん!? あのバカ、いくらなんでもやり過ぎだよ!!」)

 

(「あとで徹底的に料理を教え込むしかないわ。とにかく今は話を合わすのよ。」)

 

(「…彼女に料理ができると?」)

 

(「…無理ね。でも、やるしかないわ!!」)

 

その後、食事会は和やかに進みますが、私と母の精神的な疲労は筆舌に尽くしがたいものがありました。

彼氏さんに対する申し訳なさ、ウソをついていることへのうしろめたさ、料理音痴のくせに見栄を張った暴君に対する怒り、そしてその暴君からあふれ出るプレッシャーに対する怯え。

それらすべてを隠してにこやかに談笑することの苦しいこと苦しいこと…

疑惑追及

食事会終了。15Rをフルに戦ったボクサーの気分です。あ、今は12Rでしたっけ?まぁ、どっちでもいいや。ともかくヘトヘトでした。判定負けは確実でしょう。食事でこんなにもぐったりした経験は後にも先にもこれ一回っきりです。

お酒を飲んだ彼氏さんを家まで送った妹が戻ってくると、静かに母が語りはじめました。

 

「ヘソ子。どういうことなの?説明して。」

 

もはや説明など不要のはずである。

もし私が似たような状況で、母からこうプレッシャーをかけられたなら、即座に土下座だろう。しかし、暴君は違う。

彼女は退かぬ、媚びぬ、省みぬ。

 

ヘソ子曰く

以前、彼氏が部屋に遊びに来た際に、何か食べたいということになったが普段から料理などしないから冷蔵庫にはろくな食材もなく、「買い物行ってないからロクなものがないや、ごめんね、えへへ。」ってなもんで、冷奴に私の冷蔵庫から強奪していった三升漬を乗せて出したところ、呑兵衛の彼氏さんはこれをいたく気に入ってしまった

ということらしい。

酒好きの私が作った代物だ。同じく酒が好きな奴が喰えばもちろん気に入る味だろう。同じ理由で妹もわたしの部屋に遊びに来たときにコレを気に入り、強奪したわけだしな。

加えて言えば、急に何か食べたいと言って、あるものだけで美味しいものをチャチャっと作られれば、男としては「この娘、料理上手だし家庭的だな。」という幻想を抱くことは容易に想像できる。

実際、このあと彼氏さんは妹が料理上手だと誤解し、見栄っ張りな暴君はコレに話をあわせてしまったために退くに退けない状況に陥ってしまったそうだ。

 

哀れなものだ… 

他に冷蔵庫に食材が無く、「豆腐に三升漬を乗せただけのもの」を差し出すしか選択肢がなかっただけなのに…

もし仮に、冷蔵庫に他の食材があったならできもしない料理に挑戦し、失敗をしていたはずなのに…

彼氏さんは料理上手と誤解してしまった。ただのメシマズの彼女なのに…

 

これではあまりに彼氏さんが気の毒だ。どうにか暴君に料理を教え込まなければ。

そう私と母が決心した矢先、暴君の口から信じられない言葉が発せられた。

 

「へそちゃがこんなの作らなかったら、こんなことにならなかったんだから責任取ってよね!!」

 

暴君の暴君たる所以である。

 

このあと私と母はこの時の怒りをエネルギー源に、暴君向けの料理教室を開催することになるのだが、それはまた別の話。

料理特訓の結果、まぁ、人並みには料理が出来るようになった妹と彼氏さんは結婚し、仲良く暮らしています。そのため、この日ことも今では良い笑い話。

妹の旦那の胃袋は私と母が掴んだという話でした。

ちなみに、妹の旦那が気に入ってしまった三升漬けについては以前に記事にしてますので、良かったらどうぞ。

三升漬け、それはダイエットの敵にして、ご飯の最高の友 - ヘソで茶をわかす

 

では、また。